ベル麻痺・顔面神経麻痺の診断と治療


Qベル麻痺とは?

 ベル麻痺と云うのは原因不明の急性末梢性顔面神経麻痺、すなわち、特発性顔面神経麻痺のことを指します。 ベルと云うのは元々英国の外科医師の名前です。 最初は顔面神経麻痺の総称としてベル麻痺と云う病名が用いられていましたが、原因の明らかなものが次第に除外されるようになりました。 それでもベル麻痺は全末梢性顔面神経麻痺の約60〜70%を占めています。 また、末梢性と云うのは中枢性と云う言葉に対して用いられる言葉で脳腫瘍などの中枢性病変によって引き起こされていないという意味です。

Qベル麻痺の原因は?

 原因は不明ですが、虚血説、ウイルス説、などがあります。 虚血説と云うのは冷たい風などにあたり、顔面神経に栄養を運んでいる血管が収縮し血のめぐりが悪くなるというものです。 ウイルス説は単純ヘルペスウイルス1型が主病因となり神経炎を起こすという説です。 

Qベル麻痺と顔面神経痛は違う病気でしょうか?

 よく「顔面神経痛」と云う言葉を見聞しますが、顔面神経は筋肉を動かす運動神経で、痛覚などの感覚を伝える感覚神経ではありませんから「顔面神経痛」は誤りです。 顔面の痛覚を伝えるのは三叉神経です。 三叉神経痛と顔面神経麻痺が誤って混同されてできた言葉でしょうか。

Q顔面神経麻痺の診断は?

 顔面の左右どちらかの表情筋の動きが鈍くあるいは完全に動かなくなるので、本人もすぐに気が付きます。 左右どちらかの口角から水や飲み物がこぼれることで気が付いたりすることが多いようです。

Q顔面神経麻痺の診断は?

 顔面の表情筋が麻痺すると、左右いずれか片側の「おでこのしわ寄せ」、「まぶたの閉じ」ができなくなり、「イーッ」とか「ウーッ」とか発声してもらうと口元が、左右非対称になったりします。 また「ホッペタを膨らませる」ことができなくなります。

 さらに表情筋だけでなく涙の出が悪くなったり、聴覚過敏になったり、味覚低下・唾液分泌低下などの症状も起こします。 鑑別すべき疾患としては、ハント症候群(一口メモ)中耳炎に伴う耳性顔面神経麻痺、また中耳や聴神経、耳下腺(一口メモ)腫瘍などによる腫瘍性麻痺(腫瘍により直接あるいは間接的に顔面神経を障害し、麻痺を引き起こす)、外傷性顔面神経麻痺(一口メモ)などがあります。 

Q顔面神経麻痺の治療はどの科を受診すべきですか?

 ベル麻痺あるいはハント症候群はいずれも急に発症しますが、そのうち治るだろうと楽観視して放っておいてはいけません。 患者さま自身はどこの科に受診すれば良いのか全く判らないことも多いようです。 内科・外科・整形外科・神経科・脳神経外科等々を受診される事があります。 正解は耳鼻咽喉科なのです。 顔面神経減圧術(耳のすぐうしろの骨の中を走る顔面神経を周囲の骨の圧迫から解き放つ手術)などの治療を行うこともあって昔から顔面神経麻痺は耳鼻咽喉科で扱うことが多くなっています。

Q顔面神経麻痺の治療は?

 ベル麻痺とハント症候群は早期の治療が必要です。 安静入院治療ができれば、その方がいいでしょう。 一般的にステロイドの点滴治療を行います。 また星状神経節ブロック(一口メモ)も行います。 瞼が閉じられないので、角膜が傷まないように点眼を頻回に行い、寝る前には眼軟膏を塗り、絆創膏などで上下の瞼を閉眼状態になるよう貼りつけます。

 1週間から10日ほどの安静集中治療を行います。 入院治療中に大多数は、徐々に麻痺が回復していきます。 また治療開始が遅れたり不十分な治療などにより、麻痺が治らず陳旧性顔面神経麻痺という状態になってしまっている場合は、前記の顔面神経減圧術あるいは圧排術と云われる手術を施行することもあります。 医療機関によってはこの手術を早期から行うところもあるようですが、一般的には、先ず保存的療法を行うのが普通です。 顔面神経減圧術や圧排術などでも麻痺が軽快しない場合は、美容的見地から、あるいは本人の希望などにより形成外科的手術をすすめます。 なおハント症候群には抗ウイルス剤の静脈内投与を毎日3回行います。


■一口メモ

□ハント症候群

 ジェームズ・ラムゼイ・ハントがこの疾患を最初に報告したことから症候名の由来となりました。 帯状疱疹ウイルスにより生じる疾患で、顔面神経麻痺だけでなく耳介・外耳道入孔部の帯状疱疹(痛みを伴う皮膚疾患で、帯状疱疹ウイルスによって起こり、神経に沿って皮膚表面に水脹れのような疱疹が帯状にできる)やめまい、難聴、耳鳴などを伴うことがあります。 神経麻痺が一部の脳神経領域にとどまらず、広く脳神経領域にもおよんで、多発性脳神経炎となる例もあります。

□耳下腺

 唾液を分泌する唾液腺の一つで、その名のとおり耳の下部にあります。 茎乳突孔から出て来た顔面神経がこの耳下腺の真ん中を通って枝分かれし顔面の表情筋に分布しています。

□外傷性顔面神経麻痺

 文字通り外傷によるもので、側頭骨骨折による場合が多くみられます。 また分娩の際、産道による圧迫や鉗子分娩による神経の圧迫により神経麻痺をおこすこともあります。 また色々な手術(聴神経腫瘍などの小脳橋角部腫瘍手術、慢性化膿性中耳炎あるいは真珠腫性中耳炎手術、中耳腫瘍手術、耳下腺腫瘍手術など)に際して顔面神経を障害せざるを得なかったり、あるいは犠牲にしなければならない等の理由で神経麻痺を来すことがあります。 

□星状神経節ブロック


 頸椎の7番目のところに「星状神経節」という交感神経の節に、麻酔薬を注入すると顔面などの血行が良くなるので、顔面神経麻痺などの治療に用いられます。


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