がん診療について

胃がん

Stomach cancer

胃がんについて

胃がんは日本人に多い「がん」のひとつで、最近では「ヘリコバクター・ピロリ」と呼ばれる細菌が胃のなかに住み着いて胃がんの原因になっていることがわかってきました。近年の内視鏡検査(胃カメラ)における診断技術の向上により、早期で「がん」が見つかることが多くなってきており、適切な治療により高い確率で治すことが出来るようになりました。

胃がんについて
胃がんの診断

「がん」ができたところに潰瘍(かいよう)や胃炎があったりすると痛みを感じることがありますが、ほとんどの場合、症状がありません。
早期がんで見つかれば、内視鏡(胃カメラ)で「がん」を切除するだけで治すことが可能な場合もあります。早期胃がんの場合はバリウムによるX線検査よりも内視鏡検査でみつかることが多いので、年に一回は内視鏡検査を受けるほうがよいでしょう。

胃がんの進行度

「胃がんは胃の壁伝いに広がるばかりでなく、周囲のリンパ管や血管からリンパ流や血流に乗って胃から離れた場所に散らばっていきます。これを医学的に「転移」と呼んでいます。
一般に、胃がんの進行度は、胃壁におけるがんの深さ(壁深達度)、およびリンパ節やほかの臓器への転移の状態に基づいたステージ分類で評価されます。
内視鏡検査、バリウム検査、CT検査などで胃がんの進行度(ステージ)が決定し、進行度に基づいた治療方法が決められます。

がんの転移
がんの転移
CT検査
CT検査
胃がんの治療

どこの施設においても科学的根拠(エビデンス)にもとづいた治療ができるように日本胃がん学会で「胃がん治療ガイドライン」が作成されており、それに従った治療が推奨されます。

胃がんの治療法は主に

  1. 内視鏡手術(胃カメラを用いての治療)
  2. 外科手術(腹腔鏡手術・開腹手術)
  3. 抗がん剤治療(化学療法)

の3つに分かれています。

内視鏡手術

がんを内視鏡(胃カメラ)下で切除して治療する方法です。胃カメラの先から電気メスを出して病変を削り取ります。(ESD=内視鏡的粘膜下層剥離術といいます。)がんのタイプ、大きさ、深達度(がんがどのくらいの深さまで進んでいるか)、などで内視鏡手術を行うことができるか否かが決まります。入院での治療となりますが、治療中は静脈麻酔を行うため、痛みや不快感も少ないです。 切り取った組織は病理検査を行い、「がん」を全て切除できたかどうかを判定します。病理検査の結果によっては外科手術による追加治療が必要になることがあります。

外科手術

手術療法は内視鏡治療の適応とならない胃がんにおける標準治療です。
定型手術:「2/3以上の胃の切除と第2群までのリンパ節を取り除くD2郭清(リンパ節をその周りの脂肪組織などと一括して取り除く)を行う方法」です。多くの場合、胃の出口の方を切除します(幽門側胃切除術といいます)が、胃がんが胃の入り口の方まで広がっている時には、胃を全部切除(胃全摘術といいます)します。

幽門側胃切除
幽門側胃切除
胃全摘術
胃全摘術
縮小手術・腹腔鏡手術

病変が胃の入り口に近い場合には入口の方のみを切除する(噴門側胃切除といいます)こともあります。また早期の胃がんやリンパ節転移がないと思われる胃がんで開腹手術と同等かそれ以上の効果が期待できる場合には、腹腔鏡を用いた傷の小さい低侵襲手術(腹腔鏡下手術)を行います。

手術後の傷あと

腹腔鏡下手術の傷あと
腹腔鏡下手術の傷あと
開腹手術の傷あと
開腹手術の傷あと
腹腔鏡下手術の実際

腹腔内(腹腔:お腹の壁と臓器との間の空間)に炭酸ガスを入れてお腹を膨らませ、「おへそ」の傷から細い高性能カメラ(腹腔鏡)を挿入します。そして同時に手術操作に用いる器具を挿入するために、5~10ミリの小さな穴を左右に合計4-5か所開けます。お腹のなかの様子を腹腔鏡でテレビモニターに映し出し、テレビモニターを見ながら胃や周囲のリンパ節の切除を行います。

腹腔鏡下手術の実際
腹腔鏡下手術の実際

この手術は、腹腔鏡により臓器や血管および神経を拡大して映すことが可能です。従来の開腹手術では見えにくかった細かい血管や神経まで見えるので細やかな手術操作が可能です。胃がんを確実に治すために切除すべき胃やリンパ節の切除範囲は腹腔鏡下手術でも開腹手術でも変わりません。

化学療法
転移・再発を認めた場合

胃がんが、肝臓や肺、腹膜、遠くのリンパ節に転移している場合や、外科手術後に再発した場合は、外科手術だけでは全てのがん細胞を完全に切除することが出来ないため、抗がん剤治療を行う必要があります。抗がん剤の治療薬は「がんの性質」や患者さんの状態やニーズを考慮して最適なものを選択します。

基本的には通院で抗がん剤治療を受けることが可能で、当院ではゆっくりくつろいで、抗がん剤治療を受けて頂ける外来化学療法室を備えています。なお、初めて治療を受けられる場合や入院治療が必要な抗がん剤の場合などは入院で治療を行うことがあります。

転移・再発を認めた場合
再発予防として行う場合

外科手術のあとでも、病理検査の結果で胃がんがある程度進行していると判明した場合、再発予防のために飲み薬の抗がん剤を1年間内服することが推奨されています。

当院での胃がん診療の特徴
チーム医療で「わかりやすい診療」を実践しています

消化器内科および消化器外科のスタッフが協力して胃がんの診療を行っています。当院では、患者さん一人一人の声に真摯に向きあい、患者さんの意見や希望を尊重することを心がけています。病気や治療方法の説明ではできる限りわかりやすく行い、患者さんが不安を抱えたまま治療を受けないようにわかりやすい診療を実践しています。

また患者さんが「最善の医療」を安全に安心して受けることできるように、他の診療科の医師との連携やがん認定看護師やがん専門薬剤師といった他職種によるサポートを行い、『チーム医療』の推進にも力を注いでいます。

当院での胃がん診療の特徴
身体に負担の少ない治療をおこなっています

当院では、内視鏡治療や腹腔鏡手術など、少しでも患者さんの身体に負担が少なくなる治療を積極的に取り入れています。腹腔鏡手術に関しては日本内視鏡外科学会 技術認定医による「質の高い手術」を実践しています。

新しい治療法などの臨床研究をおこなっています

当院では、厚生労働省が助成するがん治療の臨床研究組織「JCOG胃がんグループ」や大阪消化管がん化学療法研究会(OGSG)、大阪大学消化器外科関連施設による臨床試験組織(消化器外科共同研究会 上部消化管疾患分科会)のメンバーとして、ガイドラインに基づく標準治療だけでなく、最先端の「研究的治療」にも積極的に取り組んでおり、胃がん治療においては日本で先導的な役割を担っています。

GIST(消化管間質腫瘍)について

GIST(ジスト)は、消化管間質腫瘍を示す英語Gastrointestinal Stromal Tumorの略称で、胃や小腸(大腸、食道はまれ)など、消化管の壁にできる転移、再発を起こす悪性腫瘍の一種(肉腫)です。GISTは、粘膜の下に腫瘤(しゅりゅう:こぶ、かたまり)状の病変を形成する粘膜下腫瘍の1つであり、粘膜から発生する胃がんや大腸がんとは異なる性質を示します。発症率は年間に10万人に対し1人程度と稀な腫瘍で、細胞増殖をコントロールするKIT蛋白の異常が主な原因です。病変が大きくなっても自覚症状が少なく、上部消化管造影検査や上部消化管内視鏡検査にて偶発的に見つかることが多いですが、腹痛や腫瘍からの出血による下血、貧血などの症状があらわれることもあります。CTやMRI、内視鏡検査(EUS-FNAなど)により確定診断を行います。
 GISTの治療法は外科手術が基本で、低侵襲治療として腹腔鏡手術を積極的に導入しています。手術で取り切れない場合は薬物療法(イマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ)により腫瘍の増殖を抑える治療法を行います。当院では年間10例程度、GISTの治療を行っています。