診療科・部門

循環器内科

Cardiology

ペースメーカ治療(脈が遅くなる方に適応)

主な症状:ふらつき、失神、倦怠感、労作時息切れ
上記のいずれかの症状があれば、脈が遅くなっており、ペースメーカの適応となる可能性があります

心臓の伝導

心臓の伝導

洞結節から生じた電気刺激が心房に伝わり、さらにその刺激が房室結節を通して心室に伝わります。心室に電気刺激が伝わって初めて有効な心収縮が得られます。

ペースメーカの適応となる疾患
洞機能不全症候群

自分のペースメーカの役割をしている洞結節の異常

  • a.洞停止
    洞停止
  • b.洞徐脈
    洞徐脈
  • c.徐脈頻脈症候群
    徐脈頻脈症候群
房室ブロック

心房と心室を電気的につないでいる房室結節の異常

  • a.高度房室ブロック
    高度房室ブロック
  • b.完全房室ブロック
    完全房室ブロック

上記の疾患があればペースメーカの適応となります。

ペースメーカ治療の実際
DDD

心房と心室にそれぞれ1本ずつリードを挿入します。

DDD

VVI

心室に1本リードを挿入します。

VVI

ペースメーカを植え込んだ後
ペースメーカを植え込んだ後
ペースメーカを植え込んだ後

入院期間

予定入院の場合は植え込み前日に入院していただき、翌日に植え込み手術をします。
手術約1週間後に退院となります。

外来でのペースメーカーチェック

4~6か月に1度外来で不具合がないかをチェックします。

Leadless pacemaker

徐脈性不整脈の治療としては、ペースメーカ治療があります。1930年代に体外式ペースメーカから始まったこの治療方法は電気信号を感知・発信する本体と、心筋と本体をつなぐリード線を長い間必要としておりました。
2017年より本邦で使用可能となったリードレスペースメーカ(MicraTM, Medtronic社)は、カプセル型の本体をカテーテルデリバリーシステムにて鼠径部から右心室に留置します。本体に刺激電極が一体化されており、今まで必要としたリード線が不要になりました。本体の体積はわずか1ccであり、重さも1.75gと非常に小さくなっております。さらにMRIにも対応しており、心臓を含む全身の撮像が可能になっております。
本体を心腔内に留置することで胸部に膨らみや傷もなく装置を意識することもありません。リード線断線やポケット感染の合併症も気にする必要がありません。静脈アクセスルートの閉塞など今まで開胸的に心筋リードを植え込むしかなかった症例には、開胸手術なくペースメーカ留置可能となります。
しかし、このデバイスにも問題点はあります。フックをかけて心筋に固定するシステムであるため心筋の薄い心房には留置できず、心房刺激はできません。そのため心室シングルチャンバーペースメーカの適応の患者さまにのみとなります。

Leadless pacemaker

Leadless pacemaker

Leadless pacemaker

His bundle pacing

今までは心室をペーシングするには心筋に直接電気刺激を行うしか方法はなく、通常の生理的な電気興奮パターンとは違うため非生理的とされ、心室ペーシング率が増加すると心機能が徐々に低下する症例が少数ながら存在し、心不全入院が多くなるという報告がありました。

His bundle pacing

右室心尖部ペーシングに比べて右室中隔ペーシングの方が生理的とされてきましたが、心不全回避や心機能低下を防ぐ明確なエビデンスはありませんでした。
そこで本来の刺激伝導系を利用したHis束ペーシングシステムが開発され当院でも施行可能となっております。
ただし、全例で施行可能なわけではなくHis束そのものが障害されている症例や、ペーシング閾値の問題から通常の右室ペーシングに移行せざるおえない症例も少なくないと報告されております。

His bundle pacing

植込型除細動器(ICD: Implantable Cardioverter Difibrillator)

ICDとは、心室頻拍、心室細動といった致死性不整脈を自動的に感知し、発作に反応して電気ショックを発動させ不整脈による突然死を防ぐことができるデバイスです。致死性不整脈のリスクがある患者さま、もしくはそれらを過去に起こしたことのある患者さまがICDの植え込みの対象となります。どのような患者さまに致死性不整脈のリスクがあるかというと、心機能が高度に低下した患者さま、もしくはブルガタ症候群やQT延長症候群などの若年突然死を招く心電図波形の患者さまがそれに該当します。
ICDは大きく分けると2種類あります。一つはペースメーカーと同じで静脈から心臓内に電線(リード)を留置する経静脈ICD、もう一つは心臓にはリードを入れず、皮下にのみリードを留置する、完全皮下植え込み型除細動器(S-ICD)です。当院ではいずれの治療もすることができます。どちらを選択するかは、患者さまの心臓の機能やリスクによって判断をします。
ICDを植え込んだ患者さまは、手術から一定の期間、自動車運転の制限があります。ある一定期間を過ぎ、警察署届出をすれば運転の再開は可能となりますが、再開後もICDが作動すれば、再度一定期間、運転禁止となります。

経静脈ICD
経静脈ICD

図1:経静脈ICD

完全皮下植え込み型除細動器(S-ICD)
完全皮下植え込み型除細動器(S-ICD)

図2:完全皮下植え込み型除細動器(S-ICD)

心臓再同期療法(CRT: Cardiac Resynchronization Therapy)

心臓の収縮の際に心臓全体が同じタイミングで動いていないことで、心臓の機能が低下をする場合があります。そういった患者さまに対しペースメーカーを植えこむことで、心臓の収縮のタイミングを一致させ、心臓の機能を回復させる治療のことを心臓再同期療法(CRT)といいます。心臓の収縮機能が低下をしており息切れや浮腫などといった心不全の症状ある患者さまのうち、心電図波形で心臓の収縮のタイミングがずれていると判断される患者さまが、この治療の対象となります。
ペースメーカーの電極を右心室と、冠静脈洞という心臓の外側を走る血管を介して左心室へと留置をします。そこで、どのようなタイミングで右心室と左心室の電極から刺激を送るかをペースメーカーが計算して、最適なタイミングで刺激をすることで、心臓の興奮のタイミングをより正常に近いものへと改善することができます。CRTを植え込むことで、心不全患者さまの再入院を予防するエビデンスがいくつかでてきています。しかし、中にはCRTの効果が乏しい患者さまもいることは事実であり、どのような患者さまを選択するかどうかが非常に重要となってきます。
CRTにも大きく分けると2種類あります。一つはペーシング機能のみのもの(CRT-P)、もう一つはペーシング機能に加え上記のようなICD機能も備わったもの(CRT-D)です。どちらを選択するかは年齢や背景にある疾患によって判断をします。

CRT-P
CRT-P

図1:CRT-P

CRT-D
CRT-D

図2:CRT-D

植え込み型ループレコーダー

不整脈はその性質上、発作時の心電図を捉えないと診断がつかないという問題があり、24時間ホルター心電図や携帯型心電計などの検査が行われております。しかしこれらの検査も施行可能時間の制限があり不整脈の評価としては十分でないこともあります。
植え込み型ループレコーダーは、左胸の皮下に挿入することで約3年間心拍動を持続的にモニターし、徐脈性や頻脈性の不整脈の有無を評価することができます。植え込み手技も10分程度で終了し、サイズも小さいので術後も目立たなくMRIも対応可能です。
植え込みの適応としては、原因が特定できない失神や潜因性脳梗塞における心房細動の評価とされます。
失神や脳梗塞の原因として不整脈が検出されれば不整脈のデバイス治療やカテーテルアブレーション治療が可能となります。

植え込み型ループレコーダー

植え込み型ループレコーダー

僧帽弁閉鎖不全症(MR)|カテーテル治療(M-TEER:MitraClip®)のご案内

僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、弁がきちんと閉じずに血液が左心房へ逆流する病気です。放置すると心不全や不整脈(心房細動など)の原因となり、入院や生命予後に影響することが知られています。
こんな症状は要注意:階段での息切れ、横になると苦しい、足のむくみ・体重増加、動悸・脈が乱れる など。

○当院で「M-TEER(MitralClip®)」が2022年から可能になりました

これまで重症MRの根本治療は外科手術(弁形成/弁置換)が中心でしたが、ご高齢の方や合併症のある方では手術リスクが高くなる場合があります。
M-TEER(経カテーテル僧帽弁接合不全修復術)は、足の付け根などからカテーテルを入れ、MitraClip®という小さなクリップで僧帽弁の一部をとめて逆流を減らす体への負担が少ない治療です。国際的な臨床研究では、適切な患者さんで心不全による入院や死亡のリスク低下が示されています。

植え込み型ループレコーダー

植え込み型ループレコーダー
植え込み型ループレコーダー

M-TEER(MitraClip®)のポイント
  • 切らない/心臓を止めない:全身麻酔下にカテーテルで実施。多くは術後早期から歩行可能。
  • 逆流を減らす:息切れやむくみの改善が期待できます。
  • エビデンス:重症の二次性MRで、心不全入院・死亡を減らした試験結果があります。
  • ガイドライン:国内外ガイドラインで適切な症例に推奨される治療選択肢の一つです。

※ すべての方に適応となるわけではありません。当院ではハートチーム(循環器内科・心臓外科・麻酔科・画像診断科)で治療適応について慎重に判断しています。

どんな方が対象?
  • 重症の機能性(二次性)MRで、薬物治療を続けても息切れや入退院を繰り返す方
  • 手術リスクが高い、または手術に適さないと判断された方
  • 原発性(一次性)MRで外科手術が難しいと判断された方
むずかしい例
  • 僧帽弁の形が特殊/石灰化が強い、逆流位置が合わない、心臓が極端に大きい など。

→ 心エコー・CTなどの画像評価で詳しく判定します。

検査から治療まで(流れ)
  • 1. 外来受診:症状確認・心電図・血液検査
  • 2. 心エコー(経胸壁・経食道)/CT:逆流の場所・程度、弁の形を詳しく評価
  • 3. ハートチームによる合同カンファレンス:M-TEER・外科・内科治療についてカンファレンスを行う
  • 4. 入院・手技:全身麻酔/足の付け根からカテーテル挿入/所要数時間(2-3時間)
  • 5. 退院後フォロー:内服調整・心エコー再評価・心不全外来での継続管理
よくある質問(FAQ)
  • Q. どのくらい入院しますか?
  • A. 検査入院は3-5日程度、手術入院は7日前後です。(全身状態により前後します)。
  • Q. お薬はやめられますか?
  • A. 逆流が改善しても、心不全や不整脈の薬を継続が必要です。
  • Q. どんな効果が期待できますか?
  • A. 息切れやむくみの改善、心不全での入院が減ることが期待されます。
  • Q. もし適応でなかったら?
  • A. 外科手術や薬物治療の最適化、リハビリ、他の治療選択肢をハートチームでご提案します。
心房細動に対する新たなアブレーション治療
パルスフィールドアブレーション(PFA)のご案内
植え込み型ループレコーダー
植え込み型ループレコーダー

1. はじめに

PFAは、心筋だけに選択的に作用する電気パルスで心房細動の原因部位(肺静脈)を治療する非熱(熱を使わない)アブレーションです。2024年に日本で承認され、国内でも使用が広がっています。

2. どんな治療?
  • 従来の高周波(RF)や冷凍(クライオ)は「熱」で組織を変性させます。
  • PFAは「電気パルス」で心筋細胞のみを治療します。
3. 従来法と比べた特徴(患者さん向けまとめ)
  • 手技時間が短い傾向

    ランダム化試験や臨床研究で、PFAは従来の熱エネルギー法に比べ手技時間が短いことが示されています。

  • 合併症が起きにくい

    食道損傷・肺静脈狭窄・横隔神経麻痺など、周辺臓器のダメージが少ない傾向が多数の研究で示されています

  • 効果は従来法と同等
動悸の精査に「7日間Holter心電図」を導入しました
1. なぜ“長く”記録すると良いの?

動悸は「その時」に不整脈が起きていなければ、原因がわかりません。つまり、これまでの24時間の記録では見つからないことがあります。7日間の連続記録にすることで、一過性の発作性不整脈(心房細動・上室性/心室性期外収縮など)の検出率が上がることが報告されています。症状が毎日起きる方は24時間Holter心電図、数日に1回の方は7日間のHolter心電図をおすすめしています。

2. 7日間Holter心電図のポイント
(ここが新しく、便利)
  • 小型・軽量(約12g):貼るだけのパッチ型デバイス。シャワーOK、半身浴なら入浴も可能(装着中の生活制限が少ない)。
  • 外来で簡単装着:来院当日に装着、自宅でいつも通りの生活をしながら記録できます。
  • 1週間後、自分で外して自宅から郵送で返却。
3. こんな方におすすめ
  • 動悸が毎日ではなく数日に1回起こる
  • ふらつき、一瞬の失神前後の違和感がある
  • 心房細動の既往や脳梗塞の原因精査をしたい
  • これまでの24時間Holterで原因不明だった
4. 検査の流れ
  • 1. 外来でご相談(症状のタイミング・頻度を確認)
  • 2. 装着(胸に貼るだけ/所要数分)
  • 3. ご自宅で通常生活(シャワー可/半身浴なら入浴可。激しい運動はご相談ください)
  • 4. 7日後に返却(郵送にて返却)
  • 5. 結果説明(不整脈の有無、治療の必要性を医師が丁寧にご説明)
左心耳閉鎖術(LAAC)|心房細動に伴う脳梗塞の予防
1. 左心耳閉鎖術とは?

心房細動では、心臓の“袋”である左心耳に血栓(血の固まり)ができ、脳梗塞の原因になります。
左心耳閉鎖術(LAAC)は、カテーテルで左心耳の入口を栓(デバイス)でふさぎ、血栓が血管へ流れるのを防ぐ予防治療です。海外・国内の臨床研究で、抗凝固薬(ワルファリン/DOAC)と同等の脳梗塞予防効果が示され、出血合併症の低減などの利点も報告されています。
当院でも、循環器内科で実施しています。「抗凝固薬が続けにくい」患者さんの新しい選択肢です。

植え込み型ループレコーダー

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2. どんな方が対象?
  • 脳梗塞リスクが高い心房細動の方(例:CHA₂DS₂-VAScスコアが高い)で、長期の抗凝固療法が困難/禁忌(消化管出血、転倒リスク、過去の重篤な出血、出血性素因など)。
  • 抗凝固薬での治療を試みても出血や副作用で継続が難しい場合。
  • 総合的にみて手技の安全性・有益性が上回ると判断される方。
3. 手術(カテーテル治療)の流れ
  • 1.外来受診:既往歴・お薬・出血歴を確認
  • 2.検査:経食道心エコー(TEE)やCTで左心耳の形を詳しく評価
  • 3.方針決定:抗凝固薬継続 vs LAAC を共有意思決定で選択
  • 4.入院・手技:全身麻酔下に大腿静脈からカテーテルを入れ、左心耳入口にデバイスを留置(手技時間 約1〜2時間が目安)
  • 5.退院後:一時的に抗血栓薬(抗凝固薬または抗血小板薬)を内服し、画像評価。
4. 合併症と安全対策(大切なポイント)
  • 心タンポナーデ、穿刺部出血、脳梗塞、一過性のデバイス関連血栓、周囲からの逆流など。頻度は経験の蓄積と機器改良で低下してきましたが、ゼロにはできません。
  • 検査(TEE/CT)でデバイスの位置と閉鎖状態を確認し、一時的な抗血栓薬で一過性のデバイス関連血栓を予防します。薬の内容・期間は出血リスクに合わせて個別調整します。