診療科・部門

整形外科

Orthopaedic Surgery

膝の前十字靭帯損傷

膝の前十字靭帯は、いったん損傷(断裂)すると非常に治りにくく、また放置したままスポーツを継続すると、関節内のクッション(半月板や関節軟骨)を傷める可能性が高くなります。
私どもが解析したデータでは、損傷から手術までの期間が6か月を超えると約30%の確率で内側半月損傷を生じるようになります(1)。そのため、損傷後に膝の動きが回復した段階で出来るだけ早期に靭帯再建(靭帯を作り直す)手術を行うことをお勧めしています。

①手術の前に行うこと

正確な診断を行うために、MRIを撮りなおすことがあります。また、ケガのあとは関節の腫れなどで動きが固くなりますので、正確な診断が確定した後には、特に膝の伸展(伸ばすこと)をしていただきます。手術をする時に「膝が完全に伸びている」ことが、手術後の回復にはとても重要です。

②手術(前十字靭帯再建術)

切れてしまった靭帯をそのままつなぎ合わせても安定した成績は今のところ得られませんので、自家腱(自分の腱)を採取して靭帯として移植します。採取する腱は、膝の前の「膝蓋腱」か、膝の裏の「ハムストリング腱」を選択することが多いです。どちらも再建靭帯の移植腱としては優れていますが、一長一短があり、競技の特徴や活動レベルなどで決めています。
手術は、内視鏡(関節鏡)で関節内を視ながら、「太ももの骨」(大腿骨)と「すねの骨」(脛骨)に穴(骨孔)をあけて、採取した自家腱を再建靭帯として移植します(下図)
移植した靭帯に緊張をかけた状態で、チタン製の金属固定材料を用いて固定します(2)

前十字靭帯再建の方法(骨付き膝蓋腱)
前十字靭帯再建の方法(骨付き膝蓋腱)
再建した靭帯(関節鏡)
再建した靭帯(関節鏡)
前十字靭帯再建の方法(ハムストリング腱)
前十字靭帯再建の方法(ハムストリング腱)
再建した靭帯(関節鏡)
再建した靭帯(関節鏡)

③再建靭帯の運命

再建した靭帯は、自分の身体の中で再構築(作り直すこと)が行われます。そのため、再建直後の靭帯の強度(強さ)は一度低下して、1年程度の期間をかけて改善すると考えられています。また、MRIを用いた術後の再建靭帯の評価でも、再建靭帯が落ち着いた状態になるのに1年はかかることが分かってきています(3)。そのため、再建靭帯が成熟し良い状態になるためには、段階的にリハビリを行うことが重要です。

成熟した再建靭帯(MRI画像)
成熟した再建靭帯(MRI画像)

④手術後のリハビリ(入院中)

手術翌日から車いすでの移動を行い、手術2日後から可能なトレーニングを再開します。
ただし、骨の穴(骨孔)と再建靭帯の間の治りはじめを邪魔しないために、2週間のサポーター(ニーブレース)固定を行い、その後可動域訓練に進みます。4週間で杖がとれて通常の歩行を目指します。

⑤手術後の予定(退院後)

個人差はありますが、通常は3か月でジョギングを開始し、可能であれば4.5-5か月でジャンプの訓練を行います。8-10か月でのスポーツ復帰を目指すことになります。

⑥手術後の成績

スポーツ復帰後の一番の問題は、再建靭帯が再び切れる(再断裂)ことです。私どもは再断裂を出来る限り「ゼロ」にしたいと考え、手術とリハビリに多くの工夫をこらして治療を行っています。じつは、スポーツ復帰後の再建靭帯の再断裂は世界的にも5%程度であり、当院でも4.4%でした(4)。しかしながら、女子バスケットボール選手に限った場合には、ハムストリング腱(膝の裏の腱)を用いて再建した場合の再断裂率は約9%と高頻度であったため(5)、現在では膝蓋腱(膝の前の腱)を用いて再建することが多くなっています。その結果、当院における女子バスケット選手の再断裂率は、3.5%程度と少なくなっています(6)。引き続き、学校の先生方や理学療法士・トレーナーと連携して、リハビリの工夫をこらしていく予定です。

参考資料
  1. Chronicity of Anterior Cruciate Ligament Deficiency, Part 1: Effects on the Tibiofemoral Relationship Before and Immediately After Anatomic ACL Reconstruction With Autologous Hamstring Grafts.
    Tanaka Y, Kita K, Takao R, Amano H, Uchida R, Shiozaki Y, Yonetani Y, Kinugasa K, Mae T, Horibe S.
    Osaka Rosai Hospital.
    Orthop J Sports Med. 2018. 22;6(1):2325967117750813.
  2. Anatomic ACL reconstruction: rectangular tunnel/bone-patellar tendon-bone or triple-bundle/semitendinosus tendon grafting.
    Shino K, Mae T, Tachibana Y.
    J Orthop Sci. 2015. 20(3):457-68.
  3. Cross-sectional area of hamstring tendon autograft after anatomic triple-bundle ACL reconstruction.
    Kinugasa K, Hamada M, Yoneda K, Matsuo T, Mae T, Shino K.
    Hoshigaoka Medical Center
    Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2017. 25(4):1219-1226.
  4. バスケットボール選手におけるACL損傷:スポーツ種目における実態(シンポジウム)
    田中美成、米谷泰一、北口拓也、佐藤のぞみ、竹下真弥、中里伸也、堀部秀二
    大阪労災病院
    JOSKAS 2008(2008年6月 東京)
  5. Retear of anterior cruciate ligament in female basketball players: a case series.
    Tanaka Y, Yonetani Y, Shiozaki Y, Kitaguchi T, Sato N, Takeshita S, Horibe S.
    Osaka Rosai Hospital
    Sports Med Arthrosc Rehabil Ther Technol. 2010. 9;2:7.
  6. 女子バスケットボール選手における前十字靭帯再建術後の再損傷:移植腱による違い
    岡崎史朗、田中美成、衣笠和孝、橘優太、内田良平、沼澤俊、中里伸也、堀部秀二
    大阪労災病院
    第10回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)(2018年6月 福岡)
靭帯損傷

靭帯不全になると関節が不安定になりスポーツ活動に支障をきたすため、自家腱を用いた膝・足関節の靭帯再建術(例:膝関節の前十字靭帯、後十字靭帯、内側および外側側副靭帯、内側膝蓋大腿靭帯、足関節外側靭帯など)を行っています。また、2本以上の靭帯が同時に断裂する膝の複合靭帯損傷の手術治療も積極的に行っています。

半月損傷

膝関節内にある半月板はクッションとして重要な機能を果たしており、スポーツでよく損傷されます。損傷の状態やスポーツレベルにもよりますが、鏡視下半月縫合術・切除術に加え、自家腱組織を用いた半月再建術を国内外で、先駆けて行っています。
また、一部の半月損傷に関しては、半月板の治療に加えて骨を矯正する骨切り術を一緒に行うことがあります。

軟骨損傷

治りにくいとされ放置されることの多い関節軟骨損傷に対し、損傷状態や部位に応じて鏡視下骨穿孔術(ドリリング)や自家骨軟骨移植術などの外科的治療を行っています。半月損傷の場合と同様に、一部の軟骨損傷に関しては、骨切り術による矯正を同時に行うことがあります。また、損傷範囲が広範な場合には、患者様と相談のうえ自家培養軟骨細胞移植術を施行することがあります。

膝の複合靭帯損傷

膝には4本の重要な靭帯(前十字靭帯:ACL、後十字靭帯:PCL、内側側副靭帯:MCL、外側側副靭帯:LCL)が存在し、2本以上の靭帯が同時に損傷している状態を「複合靭帯損傷」と呼びます。手術では各々の靭帯を、順番に再建(場合によっては修復)していきます。一度にすべての靭帯を治療することが多いのですが、場合によっては2回の手術に分けることがあります。